大判例

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京都地方裁判所 昭和61年(行ク)8号 決定 1986年8月26日

申立人

廣隆寺

右代表者代表役員

清瀧智弘

靑蓮院

右代表者代表役員

東伏見慈洽

慈照寺

右代表者代表役員

梶谷宗忍

二尊院

右代表者代表役員

羽生田寂純

蓮華寺

右代表者代表役員

安井寂勇

鹿苑寺

右代表者代表役員

梶谷宗忍

右申立人ら代理人弁護士

樺島正法

仲田隆明

太田小夜子

被申立人

京都市長

今川正彦

右被申立人代理人弁護士

坂本正寿

崎間昌一郎

中元視暉輔

清水正憲

彦惣弘

主文

本件申立てをいずれも却下する。

申立費用は申立人らの負担とする。

理由

一本件申立ての趣旨及び理由は別紙(一)記載のとおりであり、これに対する被申立人の答弁は、別紙(二)記載のとおりである。

二当裁判所の判断

1  本件記録によれば、被申立人が、地方税法六八六条二項及び京都市古都保存協力税条例に基づいて、申立人らに対し、いずれも昭和六一年七月二六日付をもつて、昭和六〇年度九月分から同年度一月分まで(申立人蓮華寺については一二月分まで)の古都保存協力税決定処分(以下「本件処分」という。)をしたことは明らかである。

2  そこで本件執行停止申立ての当否について検討するに、申立人らの主張は要するに、本件処分に基づいて今後申立人らに対する徴税行為が進行すれば、申立人らとしては、京都市という権力から信教の自由を守るため、申立人らの行つてきた布教伝道資材である寺院施設を人々に拝観させるという宗教行為が重大な制約を受けて、申立人らと信者、国民との関係が遊離ないし悪化し、その回復が至難の業となることは必至であり、回復の困難な損害が生ずるから、これを避けるため緊急に本件処分の効力を停止する必要があるというにある。

しかしながら、いうところの申立人らと信者ないし国民との関係の遊離ないし悪化が、本件処分自体によつて必然的に招来されるものでないことは、本件記録に照らして明らかである。そうだとすれば、かかる事由に基づき、回復の困難な損害が生じ、それを避けるため本件処分の効力を停止する緊急の必要性があるとするのは筋違いというほかない。

以上の次第で、本件執行停止の申立てはいずれも理由がないからこれを却下し、申立費用は申立人らに負担させることとして、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官石田 眞 裁判官河合健司 裁判官大西忠重)

別紙(一)

申立の趣旨

被申立人の申立人廣隆寺に対する昭和六一年七月二六日付の昭和六〇年度九月分から同六一年度一月分までについての古都保存協力税決定処分は、本案判決が確定するまでこれを停止する。

被申立人の申立人靑蓮院に対する昭和六一年七月二六日付の昭和六〇年度九月分から同六一年度一月分までについての古都保存協力税決定処分は、本案判決が確定するまでこれを停止する。

被申立人の申立人慈照寺に対する昭和六一年七月二六日付の昭和六〇年度九月分から同六一年度一月分までについての古都保存協力税決定処分は、本案判決が確定するまでこれを停止する。

被申立人の申立人二尊院に対する昭和六一年七月二六日付の昭和六〇年度九月分から同六一年度一月分までについての古都保存協力税決定処分は、本案判決が確定するまでこれを停止する。

被申立人の申立人蓮華寺に対する昭和六一年七月二六日付の昭和六〇年度九月分から同年度一二月分までについての古都保存協力税決定処分は、本案判決が確定するまでこれを停止する。

被申立人の申立人鹿苑寺に対する昭和六一年七月二六日付の昭和六〇年度九月分から同六一年度一月分までについての古都保存協力税決定処分は、本案判決が確定するまでこれを停止する。

申立費用は被申立人の負担とする。

との裁判を求める。

申立の理由

処分の存在

一、被申立人は、地方税法六八六条二項および京都市古都保存協力税条例によつて、いずれも昭和六一年七月二六日付でもつて、申立人らに対し次のとおりの古都保存協力税決定処分をした。指定納付期限はいずれも昭和六一年八月二七日である。<編注・次頁表参照>

しかしながら、そもそも古都保存協力税を定める京都市古都保存協力税条例(以下本件条例と略す)は、次のとおり、契約違反、憲法および法律違反によつて違法無効であるから本件各処分は違法無効であり、また、本件処分は何ら合理的根拠によらない推計課税によるものであつて違法でもある。

以下詳論する。

本件条例制定の経緯

二、1.古都保存協力税と同種の税条例が最初に京都市において制定されたのは昭和三一年であり、次が昭和三九年であり、本件条例は三度目となる(以下昭和三一年条例を第一次条例、同三九年条例を第二次条例と称す)。

第一次条例では、申立人らが所有、管理する有形文化財について、参詣する者に対し「文化観光施設税」を課税するとし、そして申立人らを特別徴収義務者に指定して、申立人らに徴収義務を負わせていた。

しかしながら、第一次条例も本件条例と同様に憲法二〇条の信教の自由に違背するものであつたので、申立人らは同条例の違憲性を主張して、その制定に反対した。

しかし、京都市は申立人らの反対を無視して同条例を制定し、自治庁長官の許可も得て昭和三一年一〇月一三日より七年六ケ月に亘つて実施せんとした。

ところが、申立人らが同条例の実施段階においても強く反対したので、京都市は税の徴収ができなくなり、このため京都市は申立人らと話合の結果、右税の各種の問題点を認めて、第一次条例の実施期間後はこれを延長しない旨の確約を口頭でなした。

2.ところが右確約にもかかわらず、高山市長は第一次条例の実施期間満了間近の昭和三九年三月、京都市議会に文化保護特別税条例案を提出した。税の名称は変わつても、第一次条例から本件条例まで税の内容は同一である。

そこで、申立人らは、京都市および京都市長に対し、その背信性を強く追及した結果、京都市、京都市長と申立人らとの間で「文化保護特別税の期限は本条例適用の日から五年限りとし、期限後においてこの種の税はいかなる名目においても新設または延長しない。」との合意文書の成立を見た。

3.ところが、またまた、京都市は昭和五八年一月一八日に別紙一記載の京都市古都保存協力税条例を制定した。

契約の成立

三、右に見たように、昭和三九年七月二六日に京都市、京都市長と申立人らとの間に文書でもつて、古都保存協力税については新設しないとの合意が成立した。同契約の存在は、京都市および京都市長を法的に拘束するものであつて、これに反する昭和五八年一月一八日に制定された本件条例は違法無効である。

憲法違反

四、1.本件条例は憲法二〇条一項前段の信教の自由に違背する。

本件条例に云う税対象となる観賞する文化財とは、寺院施設すなわち布教伝道資材そのものを指す。

そして、そこには宗教行為は存しても、「文化財を観賞させる」という次元での見方を求めることはできない。

憲法二〇条一項前段は、何人に対しても信教の自由を保障したが、ここに云う信教の自由には内心における信仰の自由は当然、信仰を外部に発表宣伝する自由、信仰のために礼拝するなどの宗教行為の自由もすべて含まれる。

従つて、申立人ら寺院が宗教的施設を公開し布教することも憲法二〇条一項前段によつて保障される。

そうすると、「文化財を観賞」と決めつけて、申立人らの寺院の宗教的施設の公開、布教をなすことをもつて課税することは同条項に違背するものであつて、本件条例は違憲無効といわなければならない。

2.本件条例は憲法二〇条一項後段にも違背する。

憲法二〇条一項後段は政教分離の原則を定める。

政教分離原則は、国や地方自治体に対し、宗教団体に特権を与えることを禁じ、また政治上の権力を分担させることを禁じて、その時の政治権力から宗教を自由にして、人民の信教の自由を守ることにある。

この政治上の権力には、税の徴収行為も含まれる。

ところで、本件条例は、京都市の課税権の一部たる税の徴収権を申立人ら寺社に賦与するものであるから、この点において本件条例は憲法二〇条一項後段に違反する。

昭和六〇年度九月分

同年一〇月分

同年一一月分

同年一二月分

六一年一月分

廣隆寺

不足税額

九八九、〇五〇

一、〇一三、四〇〇

二、九七五、八〇〇

二、四六四、九五〇

五六、八九〇(円)

延滞金

六八、〇〇〇

六四、〇〇〇

一六九、五〇〇

一二五、一〇〇

二、四〇〇(円)

不申告加算金

九八、九〇〇

一〇一、三〇〇

二九七、五〇〇

二四六、四〇〇

五、六〇〇(円)

靑蓮院

不足税額

七八〇、四〇〇

六六五、一二〇

一、四八九、〇三〇

一三七、三〇〇

七三、二九〇(円)

延滞金

五三、六〇〇

四二、〇〇〇

八四、八〇〇

六九、七〇〇

三、二〇〇(円)

不申告加算金

七八、〇〇〇

六六、五〇〇

一四八、九〇〇

一、三七三、〇七〇

七、三〇〇(円)

慈照寺

不足税額

三、二〇一、六六〇

四、五六六、二五〇

七、二七八、七七〇

七、六五三、六〇〇

五三〇、五三〇(円)

延滞金

二二〇、二〇〇

二八八、五〇〇

四一四、八〇〇

三八八、七〇〇

二三、六〇〇(円)

不申告加算金

三二〇、一〇〇

四五六、六〇〇

七二七、八〇〇

七六五、三〇〇

五三、〇〇〇(円)

二尊院

不足税額

八〇六、九三〇

一二三二、八四〇

二、五九三、三五〇

四一八、六〇〇

一五二、七八〇(円)

延滞金

五五、四〇〇

七七、八〇〇

一四七、八〇〇

二一二、六〇〇

六、七〇〇(円)

不申告加算金

八〇、六〇〇

一二三、二〇〇

二五九、三〇〇

四一八、六〇〇

一五、二〇〇(円)

蓮華寺

不足税額

四八、四五〇

七五、七〇〇

一四八、二〇〇

二七八、四〇〇(円)

延滞金

三、三〇〇

四、七〇〇

八、四〇〇

一四、一〇〇(円)

不申告加算金

四、八〇〇

七、五〇〇

一四、八〇〇

二七、八〇〇(円)

鹿苑寺

不足税額

五、六九〇、一三〇

八、五一三、一七〇

一三、二五五、五二〇

一三、三六二、三〇〇

九五七、〇四〇(円)

延滞金

三九一、四〇〇

五三八、〇〇〇

七五五、五〇〇

六七八、七〇〇

四二、六〇〇(円)

不申告加算金

五六九、〇〇〇

八五一、三〇〇

一、三二五、五〇〇

一、三三六、二〇〇

九五、七〇〇(円)

3.本件条例は憲法三〇条、八四条および九二条に定められた租税法律主義に違背する。

本件条例は、課税物件たる文化財の恣意性に曖昧性、課税免除規定の曖昧性、税率の曖昧性、課税根拠の不明確性、市長権限の強大性の故に、租税法律主義に内含される課税要件法律主義、課税要件明確主義に反し、違憲無効である。

4.本件条例は憲法一四条の法の下の平等に違背する。

本件条例は、別表において四〇ケ寺を掲げ、この四〇ケ寺の敷地内に立ち入る者に対してのみ課税し、その他の社寺に立ち入る者に対しては課税しない。

しかしながら、京都市内にはいわゆる有料拝観社寺は一一〇社寺ほど存する。

本件条例で指定された四〇ケ寺以外の有料拝観社寺と年間の拝観者数、拝観料の主だつたものを挙げてみる。

名称   所在場所、拝観の実態

(1)善峰寺 西京区大原野小塩町

西国二十番札所観音札場。年間有料拝観者推定数約一〇万人、拝観料徴収、大人二〇〇円、小学生以下一〇〇円。名刹。大量の文化財有。

(2)鞍馬寺 左京区鞍馬本町

鞍馬弘教本山。年間有料拝観者推定約一〇万人、拝観料徴収、高校生以上一〇〇円、それ以下無料。名刹。大量の文化財有。

(3)祗王寺 右京区嵯峨鳥居本小坂

平家物語の祗王を奉る名刹。年間有料拝観者推定数一〇万人、拝観料徴収、大人二〇〇円、小学生以下一〇〇円。特に立派な庭園。

(4)直指庵 右京区北嵯峨北の段町

京都の名刹。年間有料拝観者推定数一〇万人、拝観料徴収、大人三〇〇円、中学生二五〇円、小学生一〇〇円。特に立派な庭園。

(5)実光院 右京区大松林院町

京都の名刹。年間有料拝観者数二万人、拝観料徴収、大人四〇〇円、小学生一〇〇円。大量の文化財有。特に立派な庭園。

(6)宝泉院 同 所

京都の名刹。年間有料拝観者数四万人、拝観料徴収、大人四〇〇円、高校生以下一〇〇円。特に立派な庭園。

(7)華厳寺 西京区松室地家町三一

俗に「鈴虫寺」という京都の名刹。年間有料拝観者数四万人、拝観料徴収、大人三〇〇円、高校生以下二〇〇円。立派な庭園、鈴虫の声。

(8)円通寺 右京区岩倉幡枝町

京都の名刹。年間有料拝観者数二万人、拝観料徴収、大人三〇〇円、小学生以下は入れない。大量の文化財有。特に立派な庭園。

(9)正伝寺 北区西加茂鎮守庵町一一二

京都の名刹。年間有料拝観者数二万人、拝観料徴収、大人二〇〇円、小学生以下の場合子供のみで入る場合一〇〇円、大人と一緒に入る場合無料。大量の文化財有。特に立派な庭園

(10)光悦寺 北区鷹峰光悦町

京都の名刹。年間有料拝観者数五万人、拝観料徴収、大人子供関係なく二〇〇円。大量の文化財有。特に立派な庭園、茶室。

(11)西芳寺 西京区松尾神ガ谷町

京都の名刹。年間有料拝観者数万人、拝観料徴収、葉書で事前申込みをしてから大人も子供も三〇〇〇円以上。大量の文化財有。特に「苔寺」池泉廻遊式庭園。

(12)勝持寺 西京区大原野南春日町

俗に花の寺という京都の名刹。年間有料拝観者数二万人、拝観料徴収、入園料大人三〇〇円、仏像拝観一五〇円、子供入園料一五〇円、仏像拝観一五〇円。大量の文化財有。特に仏像、桜等の見事な花。

すなわち、京都市が一一〇の有料拝観社寺から何故に四〇ケ寺だけを選出したのかは全く理解に苦しむのであり、このことは法の下の平等を定めた憲法一四条に本件条例が違背することを端的に示すものである。

地方税法違反

五、地方税法五条からすると、法は法定外目的税の新設は許さないとしたといわざるをえない。

ところで、目的税か否かは、使途を特定しているのか否かにあるところ、本税収入の使途は、京都市に存する文化財の保存整備にあり、その中に具体的なものとして、文化財の保護、歴史的景観等の保全、観光道路、駐車場の整備、文化劇場の整備等があるのであつて、これは使途が明確に定められているのであつて、本件条例は普通税ではなく目的税を規定したものである。

従つて、本件条例は地方税法に違反する。

地方自治法違反

六、地方自治法一四項は「普通地方公共団体は、法令に違反しない限りにおいて第二条第二項の事務に関し、条例を制定することができる」と規定する。

三で述べたように、昭和三九年九月二六日に京都市、京都市長と申立人らとの間に、本件条例で定めるような税はいかなる名目においても新設または延長しないと契約したのであり、この点からして本件条例は地方自治法一四条一項に違反する。

次に、本件条例については、申立人ら寺院を中心として多数の市民らが、その違憲性、違法性や覚書違反の事実を指摘していたにもかかわらず、かつ客観的にも憲法問題を含んだ重要議案であつたにもかかわらず委員会付託もされず、また実質審議は何らされなかつた。

従つて、本件条例は地方自治法一〇九条三項、四項に反する。

八・八協定違反

七、本件条例五条二項「……観賞者の負担が過重となること、その他の理由により市長が課税を適当でないと認める場合においては、古都保存協力税を課さない」と定める。

ところで、京都市長(処分者)は、申立人らと種々協議の結果、昭和六〇年八月八日京都市長と原告らの代表である京都仏教会理事長松本大圓との間に次の協定による合意が成立した。

「(一)一九ケ寺を含む財団法人京都仏教会をつくる。

(二)一九ケ寺は向う一〇年間拝観を停止する。

財団法人が拝観を停止した寺院に申入れて拝観料等を取扱い、財団法人の収入とする。

(三)財団法人は、市と約定した金額を向う一〇年間市に寄附金として支払う。

(四) 市は右寄附金を古都税収入として受取る。

(五)財団法人は各寺の許可をうけて拝観料等として受取つた金額を古文化保存費用として使用する。

(六)市はこの財団法人を市条例第八条による特別徴収義務者に指定しない。

(七)財団法人が設立された上は財団法人が拝観料等を徴収し、各寺は財団法人の発行した拝観券を持参した者に限り拝観を認める。

但し、財団法人が設立されるまでは財団法人設立準備委員会がこの業務を代行する。

(八)第三項の約定金とは斡旋者会議の裁定金額とする。

市と仏教会は斡旋者会議の決定に従うものとする。

(九)市と仏教会との約定金の使途については諮問委員会を設けてこれに諮問する。

諮問委員会の構成は次の通りとする。

市 側    三名

学識経験者  二名

仏教会    五名

計     十名     」

すなわち、右合意は京都市長(処分者)が本件条例五条二項の「その他の理由」によつて課税を適当でないと認めて、申立人らに対して課税しないこととしたものである。

そして、このような市長の決断によつて、申立人らはそれまで閉門していた門を開けて、人々を門内に招じ入れたのである。

従つて、京都市長には賦課決定権は存しない。

推計課税の違法

八、被申立人は、本件税額を決定するについては推計課税の方法を用いたと思われる。

しかしながら、被申立人の推計課税による税額決定は何ら合理的根拠がなくなされたもので違法である。

直ちに本訴を提起する必要

九、地方税法一九条の一二は、同法一九条に規定する処分の取消の訴えは、当該処分についての異議申立に対する決定を経た後でなければ提起することができないと定める。

他方、行政事件訴訟法八条二項は、処分、処分の執行又は手続の続行により生ずる著しい損害を避けるため緊急の必要があるとき、あるいは裁決を経ないことにつき正当な理由があるときは、裁決を経ないで処分の取消の訴えを提起することができると規定する。

ところで、本件処分については、次のとおり裁決を得ないことにつき正当な理由があるので直ちに本訴を提起できるものである。

まず、本件処分の問題点は、単に処分そのものの違法ではなく、本税徴収の根拠となる京都市古都保存協力税の違憲無効ということにある。

従つて、右の点だけでもつて「裁決を経ないことにつき正当な理由」があるといわなければならない。

また、違憲無効の内容は、これまで主張したとおり、憲法二〇条の信教の自由、憲法一四条の法の下の平等、憲法三〇条、八四条、九二条の租税法律主義、地方税法、地方自治法、契約の各違反と多岐にわたる。

さらに、京都市において本件条例制定の画策がなされ始めた昭和五七年夏頃から、申立人らを中心として憲法違反、契約違反などを理由に本件条例反対行動をおこなつてきたが、京都市あるいは被申立人はこれを全く無視して委員会付託をせずに昭和五八年一月一八日の京都市議会で強引に本件条例を制定し、昭和六〇年七月一日付で申立人らを本件条例に基づく特別徴収義務者と指定してきて、同指定処分については現在御庁(第三民事部、昭和六〇年(行ウ)第二四号)において本訴が係属中であつて、本件処分についての異議申立に対する被申立人の判断は、没論理でもつてなされることが明白であつて、異議申立は手続上の形式にすぎないことが明らかである。

またさらに、本件における問題の中心は信教の自由という精神的自由権を確保することができるか否かにかかつているのであつて、この信教の自由を侵害されることの回復困難な損害を避けるために併せて本件処分の執行停止の申立をしなければならない。

右に述べた理由等でもつて「裁決を経ないことにつき正当な理由」がある。

回復困難な損害をさけるための緊急の必要性

一〇、1.本件処分は、単に被申立人から特別徴収義務者と指定された申立人らが古都保存協力税を支払うという金銭的問題に尽きるものではなく憲法で人民に保障された信教の自由を守りうるか否かに係わる重大問題を含むものである。

古都保存協力税問題は、第一次条例制定時の昭和三一年から申立人らを中心に大きくとりあげられ、第一次条例の際には、京都市は口頭でもつて同種税については延長して実施することはないと確約し、第二次条例の際には昭和三九年七月二六日に申立人らと京都市および高山市長の間において、「文化保護特別税の期限は、本条例適用の日から五年限りとし、期限後においてこの種の税はいかなる名目においても新設または延長しない」と文書でもつて明確に定められた。

第一次条例及び第二次条例の制定の際に、京都市あるいは当時の市長が右税の実施について、期限を区切つて、二度と同種の税の徴収をしないと明言したのは、京都市や京都市長にとつても本件税や、第一次、第二次条例の税の実施に違憲性を考慮したからにほかならない。すなわち、右各条例には、信教の自由、租税法律主義、法の下の平等の憲法違反の問題や、地方税で禁じられている法定外目的税、委員会付託もしなかつた地方自治法違反の問題が山積されており、京都市や市長も同各問題を看過できなかつたからこそ、右税の実施を将来的に断念すると言明せざるをえなかつたのである。

このようにして、京都市や京都市長と申立人らの代表との間に、文書にて昭和三九年七月二六日に成立したこの種の税は二度と設けないとの契約について、被申立人は別件において約束した市長が異なる、議員の議案提出権を不法に侵害するから無効であると主張する。

しかしながら、重要なことは、京都市や市長が二度とこの種の税を新設しないと約束せざるをえなかつた事実の存在である。しかも、昭和六〇年八月八日には、本件条例そのものに関して、被申立人と申立人らの代表である京都仏教会理事長松本大圓との間で左記八・八協定の合意が成立した。

そして、本件で問題となつている処分の対象となつた古都保存協力税は、右八・八協定の成立によつて、申立人らがそれまで閉門していたところを開門した結果人々が申立人ら寺院に入山したことを把えたものである。

つまり、右八・八協定によつて京都市や被申立人が申立人らからは古都保存協力税は徴収しないと明言したからこそ、申立人らは閉めていた門を開けて人々を入山させたのである。京都市や京都市長の申立人らに対する裏切行為は昭和三一年、同三九年、同六〇年と三度に及ぶ。

2.このようにして、京都市および被申立人は、本件条例の違憲無効なることを一度ならず三度も確認していることとなる。

本件処分による税額決定がなされると、八月二七日の納期期限を経過すれば滞納処分の前提として督促状が発せられ、次に滞納処分へと手続が進んでいく。

ところで、現在何らかの方法で古都保存協力税の支払を拒否している寺社は、本件条例で指定された四〇寺社のうち、約半数である。また、京都市の施設も右四〇寺社の中にいくつか含まれているか、これらの施設を除けば、古都保存協力税を支払つている一〇数寺社も申立人らと同様に本件条例については信教の自由違反等を理由に反対である。

現在被申立人は、従前の行察を全て無視して本件条例の実施を強行せんとしているため、反対寺社の多くは信教の自由を守るため閉門して、そもそも拝観料をとらずに本税を徴収しないか、開門しても拝観する方式を採らないことによつて本税を徴収しないとの行動をとつている。

寺社が、人々に拝観させること、人々が寺社に立ち入つて拝観することもいずれも重要な宗教行為であるが、反対寺社の多くは、被申立人の本税の実施のために、この重要な宗教行為を行うについての制約を受けている。

ところで、被申立人による徴税行為が本件処分によつて進行するとすれば、申立人らとしては京都市という権力から信教の自由を守るために必然的にこれまで申立人ら寺社がおこなつてきた宗教行為を、さらに制約的、制限的になさざるをえなくなる。そうなれば、申立人らと信者、国民との関係は遊離ないしは悪化し、その結果、申立人ら寺社と信者、国民との関係を回復することは至難の業となることは必至である。そうすると、寺院施設すなわち布教伝道資材を用いて宗教行為をおこなうという、申立人らの本来の使命、目的を重大な意味でそこなうこととなる。

他方、京都市が本税を昭和五七年に設置しようとした理由は、税収の少ないことから本税を実施して年間一〇億円、一〇年間で一〇〇億円の増収を図らんとしたことにある。

ところが、本税の実施とは関係なく、京都市の一般会計(年間四千億円台)は昭和五八年から同六〇年まで三年続きの黒字である。また、歳入歳出総額が各四千億円とすれば、京都市が本税で目標とした一〇億円は比率としては低いものであるし、昭和六〇年度は本税反対寺社の反対運動によつて目標の本税収入を大幅に下回つている。

また、被申立人の強行徴収の動きのあおりで、昭和六〇年度の京都市の観光客は前年比で六六万人減で観光収入にして五一億円が減収となつたといわれる。本件処分の進行如何では、この状況がさらに悪化することも予想される。

以上のような本件処分の進行によつて蒙る申立人らの宗教行為についての重大な制約、それに伴う経済的損失の大きさは、行政事件訴訟法二五条二項に云うところの回復の困難な損害に該当し、かつ緊急にこれらの損害を発生することを防止する必要があるといわなければならない。

別紙(二)

意見の趣旨

本件申立はいずれも却下する。

申立費用は申立人らの負担とする。

との決定を求める。

理由

申立の理由に対する認否と併せて本件申立を却下すべき理由を述べる。

第一、処分の存在との主張について

被申立人が申立人らに対し古都保存協力税決定処分をしたことは認めるが、その余は争う。

ただし、昭和六一年一月分とあるのは昭和六〇年度一月分との誤りであると理解する。

申立人らは、本件条例による古都保存協力税の特別徴収義務者であるところ、昭和六〇年度九月分から同年度一月分まで(蓮華寺については一二月分まで)について、本件条例一〇条二項によつて納入申告書を提出しなかつたため、被申立人は地方税法六八六条、本件条例一八条により、疎甲第一号証ないし疎甲第六号証の古都保存協力税決定通知書のとおり本件各処分をしたものである。

第二、本件条例制定の経緯との主張について

一、1のうち、第一次条例が、申立人ら(但し、申立人らのうち二尊院、蓮華寺は除く)に「文化観光施設税」の徴収義務を負わせていたこと、京都市が同条例を制定したこと、自治庁長官の許可、実施に関する主張は認めるが、その余は争う。

二、2のうち、第二次条例案が京都市議会に提出されたことは認めるが、申立人らと京都市および京都市長との間で合意文書の成立を見たとの主張は否認する。

昭和三九年七月二六日、京都市長たる高山義三個人と妙法院門跡三崎良泉外一〇名との間で覚書(以下本件覚書という)がかわされた事実があるが、京都市および京都市長は右覚書の当事者ではない。

三、3は認める。

第三、契約の成立との主張について

一、申立人らのうち、靑蓮院、二尊院、蓮華院の三名は、本件覚書の当事者でないことは本件覚書の記載からして明白である。

その余の申立人らについても本件覚書の当事者であつたかどうかはわからない。

二、京都市および被申立人は、いずれも本件覚書の当事者ではないから、その法的効力を論ずるまでもなく、本件覚書に拘束されることはない。

高山義三は、京都市の代表者として、あるいは行政庁たる京都市長として本件覚書に調印したものではない(前記第二の二)。

三、かりに京都市あるいは被申立人(行政庁たる京都市長)が本件覚書の当事者であるとしても、本件覚書六項二文は、市の課税権(地方自治法二二三条、地方税法二条)、市長の議案提出権(地方自治法一四九条一号)および市議会議員の議案提出権(同法一一二条)をいずれも侵害するもので、その内容自体からしても違法・無効なものである。

(一)、市の課税権は放棄できる権限ではない。

本件覚書六項二文に法的拘束力を認めるならば、京都市は第二次条例と同種の税を永久に設けることができず、市は私人との合意によつてその課税権の一部を放棄したことになるが、このようなことは地方公共団体に法律に従つた地方税を賦課徴収する権能があるとする地方自治法二二三条、地方税法二条に照らしてとうてい許されない。

(二)、市長の議案提出権は放棄できる権限ではない。

本件覚書六項二文が法的に有効なものとされるならば、市長は私人との合意によつて第二次条例と同趣旨の条例案を永久に議会に提出できないという拘束を受けることになるが、このようなことは地方公共団体の長の権利と責任について詳細に規定している地方自治法の趣旨に照らしてとうてい許されるものではない。

(三)、市議会議員の議案提出権は、当該公共団体(市)もその機関も侵害できない権限である。

本件覚書六項二文が有効であるとすると、市あるいは市長と私人との合意で、市議会の議決に一定の制限を加えることが許されることになるが、そのようなことは、議員の固有の議案提出権を定める地方自治法一一二条に違反して許されない。

したがつて、本件覚書六項二文が京都市および被申立人に対して法的拘束力を有するとする申立人らの主張は失当である。

第四、憲法違反との主張について

一、本件条例が憲法二〇条一項前段の「信教の自由」に違背するとの主張に対し

(一)、本税は、文化財の観賞に対し、その観賞者に課するものであるところ、本件条例において「文化財」とは、条例別表に掲げる社寺等の敷地内に所在する建造物、庭園その他の有形の文化財で、拝観料その他何らの名義を持つてするを問わず、その観賞について対価の支払を要することとされているものをいうとされている。

有形の文化財とは、建造物、絵画、彫刻、工芸品、書跡、典籍、古文書その他の有形の文化的所産で歴史上芸術上学術上その他文化的にみて価値を有するものをいうとされているところ、社寺の建造物、庭園その他の施設(以下社寺の施設という)は、宗教的意味合を有しながらも、むしろ歴史上または芸術上価値の高いものとして評価され、文化財とされるものが多い。

(二)、右のような社寺の施設は、宗教的施設としての側面を有するものの、歴史上、芸術上、観光上価値あるものすなわち文化財として観賞の対象となつており、特にその観賞について対価の支払を要するとされている社寺の施設は文化財的側面が高く評価されているものである。

このような対価の支払を要することとされている社寺の施設を拝観する者の行為は、「宗教的行為」としての意味合を有するものではなく、専ら「文化財の観賞行為」といういわば非宗教的行為であると認められる。

(三)、右事実は経験則上明らかであるが、さらに、本税と同種の、京都市における昭和三一年公布の文化観光施設税を課する条例ならびに昭和三九年公布の文化保護特別税を課する条例、奈良県における昭和四一年公布の文化観光税を課する条例、日光市における昭和三八年公布の、平泉町における昭和四六年公布の、松島町における昭和五四年公布の各文化観光施設税を課する条例の、各制定と実施から公知の事実となつているところである。

(四)、本税は、右にいう「文化財の観賞行為」といういわば非宗教的行為に着目しこれに対して課税するものであり、対価の支払を要することとされている文化財の観賞行為に担税力を求めたものであるから、信教の自由を侵すものではない。

二、本件条例が憲法二〇条一項後段の「政教分離の原則」に違背するとの主張に対し

政教分離とは、国や地方自治体と特定宗教の癒着を禁止し、宗教活動に関する国や地方自治体の中立を求めるものにすぎない。本件課税のために京都市と社寺が結託しているとみる観賞者はおそらくいないであろうし、逆に課税が特別徴収義務を課されない他の宗教宗派を特に利する行為とも思えない。また、本件の特別徴収義務は、社寺等が強制徴収権をもたず、また、徴収不足額があるときには更正決定を受け、延滞金や各種加算金、さらには刑事罰を課せられることから明らかなように、単純な義務であつて徴税事務の委任ではない。従つて、憲法二〇条一項後段の禁止する宗教団体による政治上の権力(課税権、徴収権)の行使にも当たらない。

三、本件条例が憲法三〇条、八四条及び九二条に定められた租税法律主義に違背するとの主張に対し

本件条例には不確定、不明確あるいは曖昧な要素はなく、いささかも課税要件法定主義及び課税要件明確主義に反する点はない。

この点については別添「被告第四回準備書面」の主張を援用する。

四、本件条例が憲法一四条の法の下の平等に違背するとの主張に対し

(一)、本税は「文化財」の観賞者に課せられるものであつて、申立人らに課せられるものではないから、申立人らは課税の不平等を主張すべき利害関係を有しない。申立人らにはこの点の違憲を主張する訴訟上の資格はない。

(二)、また、本件条例別表に掲げられた四〇社寺等の敷地内に所在するそれぞれの「文化財」を観賞する観賞者には一律に本税が課せられることになるのであつて、右個々の「文化財」観賞者相互間には何ら不平等な取扱はないのであるから憲法一四条違反の問題は生ずる余地もない。

(三)、さらにその観賞について対価の支払を要するとされている全ての社寺の文化財の観賞行為に対し本税と同様の税を課することは徴税効率の面、徴税の確実性、特別徴収事務の煩雑さ等の観点から現実には不可能であり、また、妥当でもないことは明らかである。従つて課税の対象を一定規模の観賞者数が見込まれる「文化財」の観賞行為に限ることは十分な合理的理由がある。

本件条例は、右のような観点から「文化財」の観賞者が多数である有名社寺等であること、また、本税の賦課によつて京都市内の観光客の大部分を把握することができること、徴税効率、徴税の確実性、徴収事務の負担にたえうること等の点につき、過去二回の同種条例の実施の経験にも照らして総合的に判断したうえ、一定規模の「文化財」観賞者が見込まれる社寺等をその二条において別表に掲げたものである。

従つて、本件条例二条において別表に掲げられた四〇社寺等の敷地内に所在する「文化財」の観賞行為に限つて課税することは、合理的な理由に基づくものであり、憲法一四条に何ら違背しない。

第五、地方税法違反との主張について

地方税法五条は市町村の目的税については、四項以下で、入湯税等七税目に限定して課税できるものとしているので、これ以外には目的税を創設できないものと解される。

しかし、法定外普通税の創設にあたつては、条例中に「……の費用にあてるため」等財政需要を示す趣旨の規定を冒頭に掲げるのが普通であるが、この規定は税創設の趣旨、動機を宜明するものであつて、税収入の使途を拘束する規範性を有するものではない。

本件条例一条(趣旨)の規定も右と同様の規定である。

しかも、目的税ではなく、法定外普通税として創設されたものであることは本件条例三条一項において明記されている。

したがつて、本件条例を法定外目的税を創設するものだと決めつけ、地方税法違反であるとする申立人らの主張は失当である。

この点については別添「被告第二回準備書面」の第一項および「被告第三回準備書面」の各主張を援用する。

第六、地方自治法違反との主張について

一、地方自治法一四条一項違反との主張に対し

第三において主張のとおり、京都市および被申立人は本件覚書の当事者ではなく、また、本件覚書六項二文は法的に無効なものであるから、京都市には申立人主張のような義務違反はなく、地方自治法一四条一項の違反は問題とならない。

二、地方自治法一〇九条三項、四項違反であるとの主張に対し

常任委員会が行う地方自治法第一〇九条三項に規定する「議案の審査」は議会からの付託を待つて行うものであり、この議会が議案を常任委員会に付託するかどうかは議会の裁量に委ねられるものである。

しかも、本件条例については新税(案)骨子として早期に常任委員会に提出され、長期間、慎重に審議されていた経緯がある。

したがつて、本件条例の制定過程に、地方自治法一〇九条三項、四項に違反する事実はない。

この点については別添「被告第一回準備書面」第三項の主張を援用する。

第七、八・八協定違反との主張について

申立人らのいう協定による合意が成立したとの主張は否認する。

申立人らの主張する(一)ないし(九)の内容が記載された書面が作成されたことはあるが、これは将来の正式なあつせん案を検討する際の試案として、あつせん者から示されたものである。このことは、昭和六〇年一一月一一日あつせん者より正式なあつせん案が示されていることからも明らかである(疎乙第一七号証参照)。

したがつて、右試案の内容は本件条例ならびに条例の施行運用に影響を及ぼすべき何らの法的拘束力もない。

第八、推計課税の違法との主張について

一、被申立人が本件税額を決定するについて推計課税の方法によつたことは認める。

右推計課税による税額決定は合理的な計算方法によつてなされたものである。

課税は実額課税が原則であるが、それができない場合に例外的に推計課税によることが許されるものと解されている。

推計課税によることが許される場合の一つとして、適法な質問検査権の行使を行つたにもかかわらず、納税義務者が調査に協力せず、または調査を拒否したため、直接資料を入手できない場合があげられる。

二、本件の場合、京都市の徴税吏員が質問検査権を行使したにもかかわらず、申立人らがこれを拒否し、その後の資料提出の催告をも拒否したため、被申立人は直接資料を入手できなかつたので推計課税を行つたものである。

三、被申立人は、推計にあたつて、申立人らが質問検査を拒否し、直接資料の入手ができなくなつた直後から、申立人らが有料拝観を停止するまでの全日について申立人らの各寺院の門前で観賞者数調査を行い、その実数に基づいて、旧文化観光施設税、文化保護特別税の実績や他の協力社寺等の六〇年度の実績等から、調査前の各月の課税人数について季節変動による補正を行い、推計を行つたもので、考えられ得る最も合理的な方法によつたものであり適法である。

第九、直ちに本訴を提起する必要との主張について

この点についての申立人らの主張はすべて争う。

申立人らが裁決を経ないことにつき正当な理由があるとするものは、本件処分の問題点が本件条例の違憲無効にあるというだけのことであり、それだけではなんら正当な理由の主張とはいえない。

また、申立人らは信教の自由を侵害されることの回復困難な損害を避けるために本件処分の執行停止の申立をしなければならないと主張するが、異議申立手続にあつても執行停止ができるのであるから、申立人らの右主張は理由がない(行政不服審査法第四八条、第三四条一、二および四ないし六項)。

第一〇、回復困難な損害を避けるための緊急の必要性との主張について

一、この点についての申立人らの主張はすべて争う。

二、申立人らは本件各処分の効力の停止を求めるものと解されるが、仮に申立人らに回復の困難な損害が発生する余地があるとしても、それは本件各処分の執行または手続続行の停止によつてその目的を達することができるものであり、本件各処分の効力の停止まで認めなければならない必要性は全くない(行政事件訴訟法二五条二項但書)。

三、本件処分の効力の停止をしなければならないような「回復困難な損害」が申立人に発生することもないし、また、それを避けるための「緊急の必要性」も存しない。

(一)、申立人らが「回復困難な損害」について縷々主張するところは、要するに「申立人らの拝観させるという宗教行為に対する制限」ということに尽きると考えられる。

しかしながら、本件条例は、二条にいう「文化財」の観賞行為という非宗教的行為に課税するものであつて、信教の自由を侵すものでないことは先に第四の一で主張したとおりであるだけでなく、もともと、申立人らの宗教行為に課税するものではないことはもちろん申立人らの宗教行為を制限するものでもない。

したがつて、本件各処分によつて「申立人らの拝観させるという宗教行為に対する制限」が生ずることは全く考えられない。

(二)、また、申立人らについて本件処分の効力の停止をしてまで、爾後の手続(特に滞納処分)をすべて禁止しなければならないような緊急の必要性は何ら見い出せない。

第一一、結語

以上の通り、本件申立は、

一、本案訴訟が異議申立前置(地方税法一九条の一二)に違反して不適法であること(前記第九)

二、回復の困難な損害がなく、また、これを避けるための緊急の必要性もないこと(前記第一〇)

三、本案について理由がないこと(前記第一ないし八)

のいずれの点からもその要件を欠くことが明らかであつて、却下されるべきものである。

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